みほちゃんと歯医者   

                                                    もじもじ
「やあーなこった、くそばばあ」

 たつやは、ひっぱろうとする母ちゃんの手をつねった。びっくりした母ちゃんが、思わず手をはなす。

「歯がなくなっても知らないよ」

「なんでだよう、だまされるもんか」

 そういって今度は、げんかんにすわりこむ。

「虫歯で、ぼろっと歯がぬけちゃうんだよ」

「ほ、ほんとかよ」

 歯のない顔がうかぶ。たつやは、気持ち悪くなって、ぶるっとふるえた。

「しょうがない。行ってやるよ」

 三年生になって、生まれてはじめての歯医者。
 父ちゃんは、ものすごくいたいっていうし、母ちゃんも、これで少しはおとなしくなるっていうから、よけいびびる。

 歯医者さんは、きれいなところだった。受付には、うすいピンク色の服をきた、かわいいおねえさんがすわっている。たつやのかたから、少し力がぬけた。

 小さなすべり台や、絵本もある。うすがたのテレビでは、まんざいをやっていたが、ちっともおもしろくなかった。

 三人が、長いすにすわっている。最後の人がよばれたら、急にお腹がいたくなった。
 かっこわるいなあ。たつやは、トイレの中で、だいじょうぶ、だいじょうぶと、じゅもんのようにとなえた。

 もどると、みほちゃんがすわっている。なんでここにいるの。たつやの顔が、明るくなった。

「よう、みほちゃんも虫歯?」

 いせいのいい声をだすと、

「ううん、きょうせい」

「きょうせいって?」

「歯にはり金はめて、カッコよくするの」

「へえー、いたそう」

「そうなの。はり金しめるとき、少しいたいんだって」

「みほちゃん、えらいねえ」

「そう。でも歯ならびがよくなるときれいになるって、お母さんいってたもの」

「きれいになるのもたいへんだね」

「そうね、がまんしないと」

 よく見ると、ちょっと歯がでこぼこしている。でもかわいいから気にしなくてもいいのに。カッコいいところを見せようと、たつやは、きちんとすわりなおした。

「小川たつやさん、中へどうぞ」

 すくっと立ち上がって中に入った。一番手前のいすで待っていると、お父さんぐらいの年の先生がやってくる。

「うーん、これはひどい。ちょっといたいぞ。今度から、もう少し早く来なさい」

 えっ! そうなの、まいったなあ。ビューン、キィーンという変な音をさせて機械が近づいてくる。こわいよう。かみさま助けて。歯がけずられていく。やっぱ、いたいじゃんかよお。やめてくれえー。やめろよ、先生。たつやは、大声でさけびたくなるのをじっとがまんした。
 そんなにやったら、歯がなくなっちゃうぞ。おい、先生わかってんのかよ。目でうったえたけど、先生は知らん顔。みほちゃんがいなかったら、とっくににげてるところだぜ。

 音がやんだ。やっとおわりかと思ったら、もう一度けずられた。がまんできなくて、なみだがこぼれそう。そのとき、みほちゃんがよばれた。ぼくの前を通って、Xサインをだしてくれた。

 みほちゃんの「うっ」という声が聞こえてくる。だいじょうぶかな、心配しているうちに、いたいのをわすれた。

「はい。じゃあ、つぎはこんどの火曜日に」

 たつやのちりょうは、おわった。お金をはらっていると、みほちゃんがもどってきた。

「だいじょうぶ」

 たつやが聞いた。

「へんな感じ。自分の歯じゃないみたい」

「それで、ちゃんと食べられるの」

「食べにくいみたい。カスが、はり金にはさまるんだって」

「よくみがかないと虫歯になりそうだね」

「そうなのよ。それが心配」

 みほちゃんも、これからずっとここに通うことになる。
 たつやの顔が、さっきまでとちがってほころんだ。

「おれも、また来るよ」

 みほちゃんに会えるなら、あと何回だって平気さ。

「母ちゃん、おれ歯医者行くぜ。早くなおしたいからね」

「あんなにいやがってたのにねえ。かわいいかんごふさんでもいたのかしら」

 母ちゃんが、たつやの顔をのぞきこんだ。

「へっへ、ないしょ」 

                                                おわり


                              第2回公募ガイド社童話新人賞佳作入賞作品

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