門脈体循環シャント・門脈シャント


門脈とは

正常の門脈は胃、小腸、大腸、脾臓、膵臓からの血液を集めて肝臓に流入します。正常な肝臓ではこの門脈血に含まれる消化吸収物の代謝、毒素の代謝、細菌の処理を行います。

 

門脈体循環シャント

 門脈体循環シャントは先天的に異常なシャント血管があり、このバイパス血管を通じて門脈血が全身静脈系の血管に短絡してしまう疾患です。この疾患では消化管から吸収された栄養物が肝臓に達しない、門脈血の毒素が肝臓により濾過、代謝をうけない、門脈血の細菌が網内系の細胞によって処理されないなどの異常が起こります。肝臓に分布する血液が不足する結果、様々な代謝異常を引き起こします。また肝臓自体の発達も損なわれます。

臨床症状

 先天性の門脈体循環シャントでは中枢神経症状、消化器症状、泌尿器症状などが見られます。

 ●神経症状

 門脈体循環シャントによる中枢神経症状は肝臓の機能低下によるアンモニアなどの中枢神経毒性物質が全身に流れるために起こり、肝性脳症と呼ばれています。その症状は沈鬱、元気消失などの軽度のものから徘徊行動、旋回行動、ヘッドプレス、視覚消失、痙攣発作、昏睡といった重症のものまで様々です。猫では過剰の流涎や攻撃的異常行動が見られることもあります。これらの肝性脳症の多くは軽減と悪化を繰り返します。また高蛋白の食事、あるいは寄生虫や消化管潰瘍に起因した消化器系の出血に関連して悪化する傾向があります。

 ●消化器症状

 食欲不振、下痢、嘔吐などがよくみられます。消火器症状が慢性的に続くと栄養不良による成長遅延や体毛の異常を起こします。この病気を持つ犬の多くは肉よりも野菜を好むことがあるようです。

 ●泌尿器症状

 尿酸アンモニウム結石は門脈体循環シャントに特有の結石です。この結石が膀胱内に存在するために起こる膀胱炎、血尿、頻尿、尿道閉塞などの泌尿器症状が見られます。

門脈体循環シャントは単一性シャント(肝内型、肝外型)と多発性肝外シャントに分類されます。

 
●単一性肝外シャントは先天性に小型犬、猫に多く見られます。犬ではヨークシャーテリア、ミニチュアシュナウザー、シーズー、マルチーズ、ダックスフント、パグなどに多く見られます。

●単一性肝内シャントは先天性にラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバー、アイリッシュウルフハウンドなどの大型犬に多く見られます。

●多発性肝外シャントの多くは、慢性肝疾患の末期症状である門脈高血圧のために、肝外で正常な門脈系と全身静脈系の間にある微小血管が後天的に拡張するために起こります。また肝内動脈と肝内静脈あるいは肝内門脈との間に起こる先天的肝動脈静脈瘻も門脈高血圧を起こし、二次性の多発性肝外シャントを起こします。

診断

 犬種、年齢、ヒストリー、臨床症状などを参考しにして、血液検査、肝臓機能検査、尿検査などの検査結果を総合的に評価して確定診断します。尿結石の定性検査で尿酸アンモニウム結石の存在が確認できれば門脈体循環シャントと診断できます。レントゲン検査や超音波検査も組み合わせてシャント血管を探します。

外科療法

 ●単一性肝外シャント・・・アメロイドリングの利用

 アメロイドリングはアメリカで開発され、近年になって単一性肝外シャントの治療に利用されている器具です。この器具はステンレスの外周とアメロイドの内周によって構成されるリングで水分を吸収することにより数週間から2カ月にわたって徐々に膨張する特徴を持っています。この器具を使って徐々にシャント血管を圧迫していくことにより、最も危険な手術後の門脈高血圧症を最小限に押さえる利点があります。

 ●肝内シャント

 肝臓内門脈シャントは大型犬に多く起こります。肝臓内門脈シャントの治療はとても難しく、危険性が高いものです。

 ●多発性肝外シャント

 慢性肝疾患による多発性肝外シャントの外科的治療の目的は、肝臓に門脈血を再循環させて肝臓の機能回復を期待するものです。

予後

 ●単一性肝外シャント

 単一性肝外シャントの犬での予後は良好で、早期に治療を行えば約90〜95%の症例で臨床症状の回復が期待できます。一般的に、猫における予後は犬より良くないと言われています。

 ●肝内性シャント

 肝内性シャントの外科治療法は、そのシャントの部位によって適用する術式が様々であるため、術前の予後判定は困難です。この手術中には肝臓の血行を止め、後大静脈を切開することがあるので、低体温麻酔、輸血などの特殊な処置に備える必要があります。

 ●多発性肝外シャント

 慢性肝疾患による多発性肝外シャントの外科的治療の効果は病態によって様々で、予後の判定は困難です。一般的には約50%の症例で臨床症状の改善が見られます。

まとめ

 門脈体循環シャントの初期症状の多くは体毛が薄い、成長が遅い、食欲にむらがあるなどといった非特異的な軽度の症状であるため、診断が遅れてしまうことの多い疾患です。この疾患は薬では治せません。患者の多くは年をとるにつれ症状が悪化し、最終的には死んでしまうことになります。もし門脈体循環シャントと診断されたなら、なるべく早く外科的治療をしてあげることが最善の方法です。治療がうまくいけば元気食欲が増し、体格も大きくなり健康な犬と全く同じ生活ができるようになります。

獣医師向け参考文献

相川武、門脈体循環シャントに対するアプローチ:ファームプレス、MVM,No 33, 1998. 1
相川武、レクチャーシリーズNo2.門脈体循環シャント:チクサン出版社、CAP,No 120, 1999.6
相川武、門脈シャントとアメロイドリング:文永堂出版、カレント ベテリナリー クリニック 1,2000.4

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