「解答編」


最初に、被害者が犯人を「見上げた」という表現があることから、登場人物の身長を考察してみる。
まず被害者の花園氏だが、身長180pの主人公よりも「10p程度低い」事から、170p前後と推察出来る。
身長についてはっきりと表記があるのは、主人公(180p)と万年青(183p)のみだが、その他の登場人物も、主人公との比較で
はっきりさせることが出来る。
馬酔木…主人公よりも「頭二つは低い」
紫陽花…主人公と「同じくらい」
女郎花…「自分より背の高い人には逆らわない」という主義があるにも関わらず、主人公や万年青へのあの態度
クロッカス…主人公よりも「はるかに高い身長」
百日紅…主人公を「ギロリと見下ろしてから」
彼岸花…「僕と同じの180cm近い長身」
以上の条件から、まずは噺家の馬酔木が容疑者から外される。

(注:実は身長設定については、初期の「懸賞小説」時には、被害者の身長は「主人公と5pも違わない」となっており、作者的には
この表現でも上記条件には影響なしと考えるのだが、一部読者にそのニュアンスが伝わっていなかった様なので、誤解を避ける
ため、懸賞終了後に「主人公よりも10p程度低い」と変更した)

次に、「左手に握り締めた刃物を」とあることから、登場人物の利き腕について考察してみる。
主人公…自分で「実は僕、左利きなんですよ」と言っている
紫陽花…「フレットを押さえる右手」とあることから左利き
女郎花…「左手に握り締めた木刀」他、万年青を懲らしめる時にも終始左手を使用していることから、左利き
クロッカス…「右手一本で、器用に煮豆を口へと…」とあることから、右利き
百日紅…「左腕のロレックス」とあることから、右利き
万年青…「超高校級サウスポー」とあることから左利き
彼岸花…自分で「あたしも左利きだから」と言っている
以上の条件から、役者の百日紅が容疑者から外される。
同じく右利きのクロッカスも一見容疑者から外せそうだが、彼は事件当夜右手に怪我をしたために、やむなく左手で犯行に及んだと
いう可能性もあるため、残す事にする。

続いて、被害者は犯人の「胸ぐらのボタンを引きちぎり」とあることから、登場人物の服装について考察してみる。
主人公…「お気に入りのポロシャツが」とあることから、ボタンあり
紫陽花…もともとは「開襟シャツ」を着ていたのだが、夕食時に「音符柄のTシャツ」に着替えているため、ボタンなし
女郎花…「迷彩柄のランニングシャツ」とあることから、ボタンなし
クロッカス…「ヤシの木が大きくプリントされたアロハシャツ」とあることから、ボタンあり
万年青…「薄汚れたワイシャツ」とあることから、ボタンあり
彼岸花…「無地のブラウスに綿のパンツ」とあることから、ボタンあり
以上の条件から、ミュージシャンの紫陽花と大佐こと女郎花が容疑者から外される。

これで残るは主人公の尾花・クロッカス・万年青・彼岸花の4名となった。
そこで次の考察だが、2章の地の文で犯人を「彼が」と表現していることから、登場人物の性別を…とはいっても性別不詳なのは
彼岸花だけなので、この「ヒガちゃん」の性別を考えてみよう。
ます彼岸花の兄弟構成は「2男2女」である。(「…を女手ひとつで育ててくれた母親」というセリフから)
そして、その内の1名が「25年前に事故で亡くした弟」であるのは言うまでもない事だろう。
しかし、彼岸花が若い頃の写真に一緒に写っていた「弟」というのは、撮影したのが25年前という事から、同じく25年前に
「事故に会ってから1年以上も昏睡状態のままで、結局一度も意識を取り戻すことなく死んだ」弟とは、明らかに別人と考えられる。
という訳で、この時点で彼岸花には弟が2名いることになり、つまり彼岸花の性別は「女」ということになるのである。

次に万年青だが、彼は噺家の馬酔木と「12時から徹夜チンチロリン」の約束をしていたため、同じ12時に被害者を殺害する事は
不可能である。
唯一、万年青が犯人となり得るのは「馬酔木が共犯」のケースだが、今回は単独犯ということで、これもなしとなる。

では主人公が…?
しかし主人公は自分でも言っているように「先端恐怖症」で、「刃物なんて、突きつけられるどころか、自分で握る事さえ無理」
ということで、やはり犯行は不可能だろう。
それに、被害者が犯人の「見慣れたその顔」と書かれていることからも、犯人とは考えずらいだろう。

ということで、最後に残るは外人のデビット・クロッカス。彼こそがこの事件の犯人となる。
…と思ったら大間違いである。
実はこのクロッカスこそが、作者が用意した「ミスディレクション」要員なのである。
身長・服装・利き腕(右手怪我でクリア)と全ての要素が揃えてあるのもそのせいである。
しかし彼には、「日本語が不得手」という欠点があるのだ。
そんな彼に「大家さん、夜分遅くにすいません。少しお話したいことが…」などという流暢なセリフを吐く事は不可能な筈である。
これについて「日本語が下手なフリをしていたのでは?」と考える人もいるかも知れないが、これから殺す相手に対してそんな
芝居をする意味そのものがないし、第一それでは逆に怪しまれてドアを開けてもらえない可能性すらある訳である。

となると、あれれ…犯人がいなくなってしまった??

と、ここでもう一度、謎の人物「ヒガちゃん」こと彼岸花の登場となるのである。
実はこの「彼岸花」こそが真犯人なのである。
え…彼岸花が「女性」である事はすでに証明されているから、「彼」ではないはずなのでは?
そこで、いよいよ最後の考察である。その「考察」とは…ズバリ「彼岸花のフルネームは?」である。
この小説では、登場人物は「フルネーム」が必ず提示される様になっている。
となれば、ヒガちゃんとて、例外ではない筈である。
では、そんなヒガちゃんのフルネームはというと、これが実は意外…でもなんでもなくて「彼岸花」がフルネームなのである。
これは、人を名前で呼ぶ時には必ずフルネームで呼ぶ万年青(例:「おい、遊々亭くも助師匠」・「これは女郎花幸一陸軍大佐」)
が、「彼岸花センセイ」という呼び方をしている事からも証明できる。
では、「彼岸花」がフルネームとして、どこまでが苗字でどこからが名前かということなのだが、これについてもヒガちゃん本人が
「あたしも一文字名前には憧れたものだわ」と言っている事から、「一文字の名前ではない」事が判る。
このことから、ヒガちゃんのフルネームは「彼(ヒ)岸花(ガンカ)」となる。
名前からして中国か台湾か、どちらにしてもアジア系外国人だろう。
だからこそ馬酔木が「ここには『国籍』も『個性』も、実にいろいろな人がいやすからねえ」と言っていたのである。
アメリカ人が一人いるだけでは、「『国籍』も色々いる」とは言わないだろう。

ということで、もうお分かりかとは思うが、2章の地の文である「彼は」とは、実はヒガちゃんの苗字である「彼(ヒ)は」と
書いてあったに過ぎないのである。
つまり、問題編に最初から犯人の名前が堂々と書いてあった、という訳になる。

なんて大胆なトリック…とは思うのですが、いかがでしょうかねえ?
感想お待ちしておりまーす!
ただ、掲示板へのネタバレになるような書き込みはご遠慮下さいね。

<あとがきと言い訳>
読んでいただければ判るように、今回はヒガちゃんの「性別」と「名前」がトリックの鍵になっている筈なのに、上記の注釈の理由で、
そこに至る前の段階で容疑者から外してしまう人がかなり多かったのは、筆者としてまことに不本意である。
表現力のなさが、こんなところで仇になるとは…(反省)
ということで、2周年記念をやるかどうかはまだ不明だが、もしやった場合には、今回と同じ徹を踏まない様に、励むばかりである。