株安(2007年3月1日)

最近、歳のせいか、映画を観ても感動できなくなったなあ・・・と思っていましたら、アメリカ映画が面白くないおかげで、日本映画の興行収益が増えている、という話がワイドショーかなにかで取り上げられていました。私が観ていたのはアメリカ映画ばかりでしたから、感動できなくなったのは、歳のせいではなくて、アメリカ映画の質の低下のせいだとわかりました。

アメリカの映画産業に何が起きているのかわかりませんが、何かが起きているようです。

ワイドショーでは、開発途上国の人たちにも理解できるよう、わかりやすい内容にしているから面白くなくなったのだ、と説明してました。政治・経済を取り扱った番組では、映画製作者が投資家の要求に応えるために、収益の回収を急ぐようになり、脚本などを煮詰める時間が少なくなっているからだという説明もありました。私個人の印象では、 CGの発達で、なんでも映像化できるようになったぶん、ストーリーがおろそかになっている、という気がしますが、根本的な問題は、もっと根の深いところにあるように思われます。根の深いところとは、マインドの問題です。業界で働く人間たちのマインドの悪化がアメリカ映画の質の低下を招いているように思われるのです。要するに、アメリカ経済は、カネさえ儲かれば仕事の質なんかはどうでもいい、という非常に悪いマインドに陥っていて、自己満足的でもいいから良い仕事をしたい、という誠実な気質を失いつつあるということだと思います。

アメリカには、世界に抜きんでた産業がたくさんありますが、それらのほとんどは、他国から移住してきた研究者や技術者によって支えられていると聞いています。アメリカという国で、アメリカ人自身が自らの手でやっているのは、政治と、企業経営と、ファーストフードの店員と、映画製作と、侵略戦争だけでしょう。世界の人々に喜ばれる仕事といえば、マクドナルドの他には、映画製作だけだったのではないかと思われます。アメリカ人自身も、映画製作については、異様なほどの執着心と誠実さをもって頑張っており、これこそがアメリカ人の大衆文化の頂点であり、民族的な産業だったと言えるでしょう。

その映画産業がいいものを作れなくなっているのだとすると、これは深刻な問題です。アメリカ人の教育水準は、もともとあまり高くありませんでしたが、それでも、そこには高邁なマインドがありました。真夏の日差しの下で青空を見上げたときに湧き起こるような、ワクワクするような澄んだマインドがアメリカ合衆国の民のいいところだったはずなのですが、今のアメリカ人は、そのマインドすらも失いつつあるようです。

低俗な人間の極みとも言えるジョージ・W・ブッシュが不正な手段で大統領になっときから国全体が低俗化したのか、国全体が低俗化していたからブッシュが当選できたのかわかりませんが、とにかく、アメリカ民族が最後の切り札として大事にしていたマインドが失われつつあるのです。

そして、今、そのアメリカ経済の基盤とも言える株価が下がっています。この件については、中国バブルの崩壊に引っ張られただけの一時的な現象だと観測する専門家が多いみたいですが、私はそうは思いません。国民の民度の腐敗がついに株価という数字になって顕れたのだと思います。国民の利益を代表するべき大統領が、家業の商売を優先させて、そのために無実の国(イラク)を攻めたり、攻めるべき相手(サウジアラビア)を助けたりしているわけで、こんなインチキがまかり通っていて、国が繁栄するわけがありません。上の者がそういうことをやっていたら、下の者だって、インチキ商売ばかりに奔るのが自明の理です。

とにかく、市民の目をあざむくことに心血を注いでいるのが、今のアメリカ政府であり、これでは、経済も疲弊していくばかりです。どうしたらいいのかは、私にもよくわかりませんが、ふと、プラトンの哲人政治を思い出しました。

プラトンは、専制君主制を肯定し、民主主義を否定しました。哲学者が専制君主となって防衛者階級(軍人)を指揮し、その防衛者階級が生産者階級(庶民)を治める3段階構造の哲人政治を説き、それぞれが知恵と勇気と節制の徳を発揮して正義が実現されると主張しました。

そううまく行くとは思えませんが、哲人を社会のトップに据える必要性は認めます。アメリカ人は軍人を大統領にするのが好きですが、これは、やってはいけないタブーです。哲人とは、つまり、利己的な利益を追求せず、与えられた課題に対して正直に誠意をもって平和的に挑む者というようなイメージです。

ちなみに、このプラトンの3段階構造の哲人政治のイメージは、インドに伝わって、カースト制になったようです。プラトンがつくったアカデメイアという教育施設は、そこで議論されていた輪廻転生説とともにインドに伝わって寺院となりました。また、そのアカデメイアは、ヨーロッパに伝わって大学となったそうです。アカデミックな議論をするのが西洋の哲人であり、輪廻転生説のような形而上的な議論をする高僧が、東洋の哲人ということになります。大学を中退している私には、哲人を語る資格はないかもしれませんが、世界経済の救世主となる者は、哲人だと思います。

次のアメリカ大統領がだれになるのかわかりませんが、有力候補のミセス・クリントンには哲人の素養はないように感じます。別の人が大統領になるかもしれませんが、どのみち、軍人か、商売人か、タレントみたいな者しか当選できないでしょう。したがって、株安は、かなり長期化するのではないかと思います。


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