海外視察レポート2



ドイツ・ダルムシュタット市議会

1. 視察目的

 日本の地方都市議会は、ドイツ式と米国式の中間であると言われている。
 米国の市議会には、Assembly (議会)という言葉ではなく、Meeting (会合)という言葉が使われているが、これは、議員の数が非常に少ないことによる。オレゴン州のポートランド市の場合、市議会議員 ( Commissioners of Council ) の数は僅かに4名でしかない。これは選挙で選ばれるわけだが、議員というよりも高級官僚に近く、大きな行政権を持っており、その報酬も高額である。
 これに比べて、ドイツの市議会の場合は、議員の数が非常に多数であるが、その権限は小さく、報酬は基本的にない。
 札幌市を含めて、日本の地方都市議会は、そのサイズも報酬も権限も中途半端であると言われているわけだが、今回の視察目的は、ドイツの場合がどうなっているのか、その詳細な実例を見聞し、今後の議会のあり方を探ることにあった。

2. 視察先

New City Hall Darmstadt, Magistratssaal
 ヘッセン州のダルムシュタット市のマギストラータ(行政幹部会議)の会議室、及び、市議会の議事堂。

  

ダルムシュタット市役所前  市役所は民間の建物の中に置かれており、1階には多数のテナントが入っていた。

 ダルムシュタット市は、人口14万の小さな街だが、昔はヘッセン州の州都であった。学問と芸術の町として有名で、大学があり、核エネルギーの研究センターや宇宙開発関連の研究所などもあるそうだ。また、ビュ−フィナ−文化賞なるものの授与式場になっており、文化都市としても有名だそうだが、経済面でも他多方面にわたって力を持っていて、有名な化学薬品工業の会社もあったりして、けっこう大したものらしい。

3. 説明者

Stadtrat Willi Franz (通訳さんは、フランツさんと呼んでいた)
 元市議会議員で、ギムナジュウムの校長先生をしていた方である。現在は、マギストラータ(行政幹部会議)の一員である。

  

写真の部屋は、マギストラータの会議室。フランツさんが立っているところは、市長の席だそうである。

4. 説明内容

  1. 市の予算
     年間予算が7億マルク、と在独日本人女性の通訳さんは解説していたが、1マルク=約48.5円として、7億マルクは約340億円にしかならず、ゼロが一個足りないのではないかと思われる。とにかく、この7億マルクのうち、5億マルクは普通の経費で、2億マルクは投資的経費だそうだ。

     (註)通訳さんは、普通の経費という表現をしていたので、もしかするとその5億マルクは一般会計のことかもしれないが、投資的経費に対応す  る普通の経費とは、経常経費のことではないかと思われる。だとするならば、その7億マルクは、まるまる一般会計の予算ということになる。とにかく、通訳さんの地方行政に関する知識が非常に貧困で、専門的な話がなかなか通じなかった。

     市の歳入は、約3分の1が連邦政府と州政府からの交付金になっているらしいが、これは、消費税(16%)や所得税の払い戻し金がほとんどのようだ。
     また、その他の3分の1は、上下水道やゴミ処理などの手数料で、他の3分の1は、市内の企業の事業税だそうだ。その事業税というのがどういう税なのか、利益に対してかける税なのか、事業規模に対してかける税なのかは確認できなかった。固定資産税の件も未確認である。ただ、面白いと思ったのは、住民税がないということである。
     また、ダルムシュタット市も市債を発行していて、その額については、「よく知らないが、5億マルク程度ではないか」と、フランツ爺さんは言っていた。

  2. 議会と行政府のしくみ
     ドイツの地方議会のしくみは、州によってまったく異なる。ブルテンベルク州のハイデルベルク市では、市長は議長でもあるのだが、ヘッセン州では、議長と市長は別々になっており、兼務もできないようになっている。議員の選挙もブルテンベルク州では、比例代表併立制になっているが、ヘッセン州では、比例のみの選挙になっている。
     また、ダルムシュタット市の市長は Ober B殲germeister と呼ばれ、助役は B殲germeister 呼ばれているが、他の州では、その B殲germeisterは市長を意味するのが一般的であるようだ。ちなみに、ハイデルベルク市の助役は2名だが、ダルムシュタット市の助役は1名である。
     もっとも、ノルトライン・ヴェストファーレン州のケルン市では、助役は Beigeordnete,Dezernat と呼ばれ、その数は10名もあり、行政の各分野を統括しているらしい(ネット情報)。
     それらの各州では、市長や助役や議員の任期もまちまちだが、共通していることは、市長は市民の直接選挙で選出され、助役は議会で選ばれるということである。

     ダルムシュタット市の市長の任期は6年だが、議員の任期は4年である。議員定数は71名で、それらが一同に会する本会議は、年に10回(10日間)程度でしかない。この他に、常任委員会が設置されているようだが、その委員会が年間何日ぐらいあるのかは確認できなかった。

     マギストラータと呼ばれる市の行政幹部会議は毎週水曜日の午後3時に召集される。このマギストラータは20名で構成されていて、市長以外は、本会議で選出される。その内訳は6名の常勤理事者(任期6年)と、14名の名誉職(任期4年)になっている。フランツさんは、この名誉職のひとりである。以下は、6名の常勤理事者の内訳である。

       市長
       助役
       収入役(財政局長を兼ねるようなもの)
       保健福祉局長(のようなもの)
       建築局長(のようなもの)
       外国人管理局長

     (註)ノルトライン・ヴェストファーレン州では、5000人以上の外国人が居住している市町村では、外国人委員会なるものの設置が義務づけられており、その委員は、1年以上合法的に住んでいる外国人の投票によって選出されるのだが、ダルムシュタット市には、そういうシステムはないようだ。

     以上の6名の常勤理事者には報酬も出るし、個室が与えられて秘書も付き、他の職業を兼務することは許されない。が、14名の名誉職は無報酬で、秘書もなにも付かないし、他の職業を兼務してもかまわないようだが、現職の議員はこの中には入れない。

  3. 選挙について
     ダルムシュタット市の市議会議員選挙は、比例のみなので、候補者が選挙資金を用意する必要はない。全ては党が賄うようだ。
     ちなみに、議員には、通信費や交通費などの費用弁償として毎月700マルク(約33,950円)が支給されるが、その他の報酬はない。
     党がどのようにして資金を集めるのかは、通訳の女性がこの手の問題を非倫理的とするような固定観念を抱いていたためによくわからなかったが、企業献金も個人献金もあるようだった。とにかく、選挙は基本的に党がやるものであり、候補者が個人後援会などをつくる必要もないらしい。ドイツには、町内会組織もないので、地域利益誘導型の陳情も少ないようだ。議員が就職の世話をしたり、パ−クゴルフ場の誘致争いの代表になったりすることはないのである。
     こうした話を聴くと、市議会議員はまったくの名誉職のように思われ、隠居した地域の名士などがやる仕事のように思われるが、しかし、そのダルムシュタット市の市議会議員の中には、州議会議員や連邦議会議員になった者もあり、州政府の大臣になった者も2名ほどあるらしい。おそらく、それらは、若いうちに市議会議員をやり、党に貢献して上に登ったのであろう。
     党は、党員を役所内の重要ポストに付けようとして無理な人事を後押ししたりすることがあるそうだし、だれを議員にするかを決定できる。その党に対する貢献が、どのような基準で査定されるのかまでは確認しなかったが、不正が起きるとしたら、そのあたりところであろう。

5. まとめ

 ダルムシュタット市の市議会議員は無報酬ということもあって、大した仕事をしていないように見えた。選挙活動も後援会活動もしなくて済むのに、市債残高もはっきりと覚えていないのだから楽そうである。要するに、市政の運営に関しては、マギストラータの中の6名の常勤理事者が全てを握っているものと見受けられる。ただし、その6名のうちの助役以下5名は議会で選ばれるわけであるから、その議会の権限は小さくはない。

 我々は700マルクを遥かに超える報酬を受け取っているが、しかし、事務所経費やら、後援会の維持管理費やら、選挙資金やらを支払うと、実際には赤字である場合が多い。札幌市を含めて、日本の地方都市議会は、そのサイズも報酬も権限も中途半端であると言われているわけだが、その通りであると痛感した。

 

本会議場

後の旗はダルムシュタット市の旗だそうだ。ここで本会議が開かれるのは年に10日間だけということからか、議場そのものは、ただの他目的ホールでしかない。内装は、西区の区民センターのようであった。色んな会議にも使われるし、ひょっとすると、ダンスパーティーなどにも使われているのかもしれない。

 

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