ハリーとトント老人と老猫のアメリカ横断ロード・ムービー

HARRY AND TONTO

 首輪にロープをつけたネコと一緒に散歩をする老紳士。彼の名は

ハリー・クームズ(アート・カーニー)。72歳の元国語教師で、今

は年金で暮らしている。ネコの名はトント。11歳の茶トラの雄で、

4年前にハリーの妻が亡くなってからは、ニューヨークのアパート

でハリーと暮らしている。

 ロープをつけて散歩をすることには賛否両論があるだろう。ただ、

交通量の多い都会では、飼い猫は一般に外には出さない。そんなこ

とをすれば、遅かれ早かれ交通事故にあうことは間違いないから。

アパートから追い出された

老人と老ネコの行方は?

 散歩の先は雑貨屋さん。卵1ダース半、スキムミルク1本、コテ

ージ・チーズ2箱、レバー4分の1ポンド、クリーム1本を注文す

るハリー。

店の主人「おれよりぜいたくなネコだ」

ハリー「食うことはネコの最大の楽しみだ」

主人「おれだってそうさ」

ハリー「君は本が読める。テレビもある。女とも寝られる」

主人「くだらん。ネコのほうがお盛んさ」

ハリー「ネコも私もあっちは引退さ」

 買い物の後はいつもの公園のベンチへ。ここにはポーランド移民

でハリーより年上のおしゃべり仲間がいる。彼にニューヨーク市か

ら立ち退きを命じられていることを告げる。老朽化したアパートを

取り壊すことになったのだが、がんこ者のハリーは最後まで越さず

にがんばっているのだ。ハリーは友人にこう言う。

「トントの歳になると引っ越しは辛い。なじみすぎてるからね」

これはもちろん、自分の老いを伏せて、私の歳になると、というの

をトントに置き換えているのだ。ネコにとっては、若くても引っ越

しは気に入らないものだ。

 しかし、ニューヨーク市は待ってくれない。強制的な退出手段に

出る。警察はアパート下の道路から拡声器で「投降」を呼びかける。

トントは何事かとベランダから下をのぞき込む。やがて椅子ごと階

下までハリーは連れ出され、アパートには鉄球が打ちつけられる。

 ハリーとトントは同じニューヨークに住む長男、バート(フィル

・ブランズ)の元へ。ここには妻のエレン(ドリー・ジョナー)と

二人の息子がいる。家は広くなく、ハリーとトントはバートとエレ

ンの次男、エディ(ラリー・ハグマン)と同じ部屋で寝ている。新

居に気が立っているトントも、エディにはなついている。彼は無言

の修業を行い、自然食品だけを食している穏やかな青年だ。

 ハリーは義理の娘、エレンとうまくいかない。ハリーはアパート

を探しに街に出る。適当なところを見つけたと思っても、ネコはお

断り、と言われてしまう。ネコを歓迎しないのは、日本もアメリカ

も同じ、といったところか。そこでハリーは、バートが引き留める

のも構わず、シカゴに住む娘の元へ行くことにする。

 空港に向かうが、ここでまたひと悶着。手荷物検査で、トントの

入ったカゴを係官に渡すことを拒否したからだ。列に並ぶ客のひと

りにハリーは尋ねる。

「ネコも調べる?」

「何でもだよ」

そこでハリーはトントに言う。

「誰にもさわらせないよ」

だが、そんなことで引き下がる係官ではない。ハリーは中身を説明

する。

「ネコが一匹、ボロ切れ、ゴムのネズミ、ネコの砂250グラム・・」

 結局、中を調べさせることよりも飛行機に乗らないほうを選択する。

タクシーを拾い、シカゴ行きのバス停まで走ってもらう。女性ドライ

バーはハリーをセールスマンと思い、何を扱っているのか尋ねる。

「ネコさ。数年前なら昼前に6・7匹は売れた。シャム、バーマン、

マンクス、ペルシャ、ロシアンブルー、チョコレート、キャラコ、レ

ックス・・」とホラを吹く。

「レックス?」

「近頃じゃ誰も知らんな。10キロもある巨ネコだよ」

「エサ代だけでも大変だ」

「だから今じゃ誰も飼わん」

チョコレートは地色、キャラコというのは三毛猫のこと。レックスは

どれも巨ネコというわけではないが、大食漢のネコなのでエサ代がか

かるのは間違いなさそうだ。ちなみに、映画は74年の製作、オイルシ

ョックの経済危機が続いている時代だ。

ネコとの旅には、気ままで

自由な車がいちばん?

 バスに乗ってもトラブルは続く。バスの後部にあるトイレではトン

トは気に入らなく、鳴いて抗議する。ハリーは運転手に止めてくれと

頼む。だが、運転手は

「動物は乗車禁止です。カゴに入れてさせろ」と言う。

「カゴが汚れるとネコは嫌がる。ネコはきれい好きなんだ」

「バスは止められません」

「止めんとこいつは誰かの足にひっかけるよ」

この一言でバスは急停車。田舎道の芝にトントを下ろすが、彼は近く

の墓地へ走って行ってしまう。運転手はもう待てないとバスを発車さ

せてしまう。そこへトントが戻ってくる。

「何てことをしてくれたんだ、おかげで寿命が縮んだぞ、悪い子だ」

と言うハリーだが、手は彼を愛しそうになでている。

「そうか、バスが嫌いか。自由がいいか」

 飛行機、バスの後は自動車。ハリーは中古車店へ行き、車を1台買

ってシカゴへと向かう。結局、トントにはこの乗り物がいちばん合っ

ているようだ。途中、家出娘を乗せたり昔の恋人がいる老人ホームに

寄ったりしながらシカゴに到着。

 娘のシャーリー(エレン・バーンスティン)は小さな書店を経営し

ている。彼女は開口一番、

「トント、誰と来たの?」と皮肉を飛ばす。

 父子の仲はうまくいっていないようだ。親が息子や娘たちの元を訪

ね歩き、そのたびにほろ苦い思いをするという設定は、小津安二郎監

督の「東京物語」を連想させる。娘の元には孫のエディがやってきて

いた。

 娘の元を去ったハリーとトントは、家出娘のジンジャー(メラニー

・メイロン)とエディを乗せてアリゾナへ。若者ふたりはコロラドの

コミューンへと旅立つ。そこはヒッピーたちが集団で暮らしていると

ころ。ハリーは彼らに車を与え、トントと一緒に今度はヒッチハイク

の旅が始まる。末っ子の息子が暮らすカリフォルニアへ向かって。

 途中、ラスベガスでは立ち小便をして留置場に入れられる羽目にも

陥る。そこで出会ったインディアンの老人との話の中で、トントの名

前の由来が語られる。ラジオ・ドラマの「ローン・レンジャーに出て

くる」名前という。ローン・レンジャーに忠実なインディアンの名前

だ。

「ローン・レンジャー」は1933年にデトロイトでラジオ放送が開始

し、週に3日放送され21年も続いた人気ドラマ。50年代から60年代

にかけては、テレビの人気番組にもなっていた。

 ブタ箱も経験したハリーだが、ようやく末息子・ルロイ(エイヴォ

ン・ロング)の住むロスに到着。不動産業などでしっかりやっている

はずだったが、彼はほとんど破産状態で苦境に瀕していた・・

 ラストは西海岸のどこかでのんびり暮らすハリーが、公園のベンチ

でくつろいでいる。そこで大勢のネコにエサをやる、いわゆるネコお

ばさん(サリー・K・マール)から一緒に暮らさないかとくどかれて

いる。そこに一匹のネコが向こうに見えた。トントにそっくりのネコ

だ。ハリーはそのネコを追っかけていき、海岸を走っていく。

 ハリーを演じたアート・カーニーは映画初出演でアカデミー賞の主

演男優賞を受賞している。トントを担当したアニマル・トレーナーは

ルー・アンド・ベティ・シューマッハー。

              end


映画データ

74米/製作・監督・脚本=ポール・マザースキー/脚本=ジョシュ・

グリーンフェルド/撮影=マイケル・バトラー/音楽=ビル・コンティ

/出演=アート・カーニー/エレン・バースティン/ダン・ジョージ/

ジェラルディン・フィッツジェラルド/ラリー・ハグマン/フィル・ブ

ランズ/ドリー・ジョナー/ハーバート・バーゴフ/エイヴォン・ロン

グ/メラニー・メイロン/アーサー・ハニカット/サリー・K・マール

/バーバラ・ローズ


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