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黒く塗りつぶされた視界の中、《天照》の放つ殺気を頼りに、銃を構える。

見据える先は、何処までいっても黒、黒、黒、一面の闇。

どうやら、さっき《天照》の攻撃を受けた際に、ゴーグルが故障したらしい。

故障したゴーグルを外せば、視界は確保できるだろうが、その代わりに《ペルソナ使い》特

有の光輝く瞳が露わになる可能性が高くなる。

人外の《力》の象徴ともいえる光る瞳を、人目に晒すのは、やはり憚られる。

ましてや、今は葉佩の身体を借りている《宝探し屋》代行の身。

戦闘中にゴーグルを外すのは、躊躇われた。

「いっくよー!」

八千穂の元気な声がして、彼女のスマッシュボールが宙に浮かぶ番人《化人》目掛けて飛ん

でいく。

彼女が狙った《天照》の姿は見えずとも、その位置、並びに番人の弱点は、気配から十分に

把握可能。

なので、俺はこの際、視界の不利は気にしない事にした。

戦闘中にゴーグルの故障が直って視界が確保できたら幸運、くらいのつもりで前へ出てサブ

マシンガンの引き金を引く。

狙いは多少、甘くなったが、気が淀む弱点付近に向かって銃弾をばらまき、弾幕を張ること

で命中率の悪さをカバーする。

弾が減って銃身が軽くなってきたら、八千穂に援護をお願いして、空の弾倉を交換する。

訓練された葉佩の身体は、手慣れた機械的な動作で新しい弾倉を換装。

視覚に頼らないリロードを数秒で終わらせる。

サブマシンガンを連射して、交換したマガジンが空になる頃、ようやく《天照》を倒した。

「やったーッ!」

八千穂がラケットを振り上げて、歓声を上げる。

皆守は戦闘中、八千穂と俺、どちらもフォロー可能な位置を常に保っていた。

その後ろには、気絶した朱堂が長々と伸びていて、一応、元《墓守》の安全も考えて、彼は

あの位置に立っていたのかもしれない。

 

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《天照》の魂魄の気配が、天井に吸い込まれていく。

敵影の消失と安全領域の確保を告げるH...Tのナビ音声に、銃口を下げる。

崩れゆく番人の身体の方からは、何か軽いものが落ちる音が聞こえてきた。

音の正体は、おそらく朱堂の宝物。

銃の安全装置を掛けた俺は、そこでようやく故障したゴーグルを額の上に引き上げる。

床の上に視線を投げかけた所で、視界が相変わらず真っ暗なのに気が付いて動きを止めた。

「…………」

ある種の生体波動を常に感じさせる生き物と違って無機物には、これといった特定の波長

がない。

音も動きもなくなった静物を、気配だけで捉えるのは、ひどく難しい。

風花の《千里眼》ならば、視覚に頼らない無機物の走査も可能かもしれないが、自分のペル

ソナ能力には、そこまでの力はない。

とりあえず、視力の回復を促すべく、その場で数回、目を瞬いてみた。

それから、手の平をじっと見つめて、拳を握ったり開いたりしてみる。

葉佩の身体が正常に動いているのは感じ取れるが、目に映る視界は相変わらずの真っ暗闇。

何も見えない。

「……おい、どうした九龍?」

番人を倒したというのに、俺が突っ立ったまま動こうとしないので、さすがに不審に思った

皆守が、声を掛けてきた。

「……うん、何か目が見えなくなったみたいで」

「何ィッ!?」

「ええッ!?」

皆守の素っ頓狂な声と八千穂の驚きの声が、見事に重なる。

思えば視覚に異常を感じたあの時から、ゴーグルの故障などではなく、視力そのものを失っ

ていたのだろうが、まさかゴーグルをかけていながら、失明するなんて誰が予想しよう。

どうやら《天照》の放つ電撃には、視覚障害を引き起こす要素が含まれていたらしい、とい

う結論に達するが、それが分かった所で、目の状態異常は治らない。

見えない目の瞼を押さえようとした俺の手を、素早く接近してきた皆守が掴んで止める。

「バカ、擦るなッ!」

叫んだ皆守に、掴まれた手を引っ張られた。

身体の向きが変わって、向かい合わせの形になる。

「ちょっと見せてみろ」

いうが早いか、皆守の手が俺の顎を掴んで上向かせる。

頬に手が回って間近から、じっと顔を覗き込まれた。

「……赤くなったりはしてないが、痛みは?」

「特にない。けど、何も見えない」

皆守の真剣そのものの視線は感じ取れるが、こちらからは何も見えない。

瞬きを繰り返してみても、光すらも感じ取れず、茫洋とした眼差しを前に向けるだけだ。

八千穂が心配そうに、近寄ってきた。

俺自身は身動きがとれないので、瞳だけを動かして自分の代わりを八千穂に頼む。

「八千穂、俺の代わりに朱堂の持ち物を、彼に返してやってくれないか?」

「うん、いいよ。任せて」

八千穂はすぐに請け合って、部屋の中心付近へ向かって走り、朱堂の宝物を拾うと、それを

持ち主の元へと運んでいった。

彼女の気配を追って、焦点の合わない目を泳がせていると、

「動くな」

正面にいる皆守から怒られた。

俺は大人しく、虚空に彷徨わせていた視線を前に戻す。

すると手首を掴んでいたもう一方の皆守の手が頬に回って、両手で顔を挟まれた。

ラベンダーの香りがする。

更にじっと、瞳の奥を覗き込まれているような視線を感じたが、こちらからは何も見えない。

一度《魂の井戸》に戻らないと駄目か。

遺跡にある回復施設、清浄な空気に満たされた《魂の井戸》を思い浮かべる。

――魂。

ふと思い付いて、何も見えない視界に重ねて、意識と無意識の狭間の様子を探ってみる。

さっき鎖を鳴らした死神は、今は何事もなかったかのように大人しくしている。

それでも、あの時、遺跡の下層に引きずり込まれた自分の意識を、葉佩の身体に引き戻した

のは、やはり――。

精神の狭間にいる死神の白い仮面を、じっと見つめる。

「――――!」

突然、現実世界にいる皆守が、身体を強ばらせた。

――まずい、瞳が光っていたか?

急いで現実世界に意識を戻せば、頬に触れる皆守の手から、彼の動揺する気配が伝わってき

た。

「…………」

息を飲んで、沈黙する皆守。

しかしそれは、何か異質なモノを見て驚いている、といった雰囲気ではなかった。

何かもっと別の、俺にはよくわからない理由で、切羽詰まって焦っている。

――進退窮まって退くに退けない。

そんな状況を連想させる焦り方だった。

「…………」

「…………?」

何も見えない視界の中、目の前にいるはずの皆守は無言のまま、硬直して動かない。

人に『動くな』と命じた本人が、逆に動きを止めているとは、どういう事か?

不審に思って目を瞬いていると次第に、薄ぼんやりとだが、皆守の顔が見えてきた。

「あ、見えてきた」

「――――ッ!!」

俺の声に、皆守が弾かれたように飛び退った。

そのまま大きく後退して背後の壁に貼り付き、喘いでいる。

「……皆守?」

皆守の様子がおかしい。

そういえば前にも自室で似たような事があって、あの時も瞳が光っていなかっただろうか、

と不安になったのを思い出す。

まだはっきりとしない霞がかった視界の中、皆守の顔が赤く見えるのは、気のせいだろうか。

朱堂の傍で、こちらの様子を窺っていた八千穂も、いきなり後ずさった皆守の挙動に驚き、

目を丸くしていた。

「へへッ……、やるじゃねェか。いいモン喰らっちまったぜ。くッ……」

その時、朱堂の男らしい、低い声が聞こえてきた。

意識を取り戻したらしい。

自嘲気味に笑って身体を起こした朱堂の目の前に、八千穂が彼の宝物を差し出す。

「なッ、何なのッ、この光はッ!?」

朱堂ははじめ、八千穂の手の中にある自分の宝物に、強烈な光のイメージを見て戸惑ってい

たが、やがて、その正体を見極めようと目を凝らす。

「そッ、それは……。そのコンパクトは、アタシが初めて買ったコンパクト……」

八千穂の手の中に自分の宝物を認めた朱堂が、震える手を伸ばしてコンパクトに触れる。

「何ッ!?この気持ち……。何なのッ!?ずっと忘れていたこの湧き上がる感情は――

ッ!?」

コンパクトを手にした瞬間、朱堂は口元を押さえて目を潤ませた。

ただ、視力が回復していない所為なのか、それとも俺自身が朱堂の宝物に触れなかった所為

なのか、もしくはその両方か。

取手や椎名の時と違って、朱堂の宝物にまつわる彼の過去の映像は、俺には見えてこなかっ

た。

 

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