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墓地には、一足先に取手が来ていた。

「やあ、葉佩君。……と皆守君」

顔を輝かせて迎えてくれた取手は、俺のすぐ後ろにいる制服姿の皆守を見て、心なしか沈ん

だ表情になった。

「今夜は葉佩君と二人きりだと思っていたんだけど、皆守君も一緒だったんだね」

「まあな」

取手と皆守、二人の間で互いを刺すような鋭い視線が、一瞬だけ交差する。

俺はその様子を見て、二人は保健室仲間じゃなかったのだろうか、と首を傾げた。

 

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「この曲を聴かせてあげよう」

取手の音波による攻撃、フォルツァンドによって番人《化人》――《神産巣日》は倒れた。

淡い燐光は天井に、身体は塵となって床に崩れ去る。

「何だよ、もう終わっちまったのか」

主の消えた《化人創世の間》に、気だるい皆守の声が響いた。

 

初探索のあの日、皆守の助けで回避した《神産巣日》の攻撃属性は射撃だった。

今、降魔している《メサイア》は貫通、射撃を吸収する特性を持っている。

だから《メサイア》を降魔している限り《神産巣日》の攻撃を避ける必要は、実はまったく

ないのだが、俺はバディの目に《ペルソナ》の能力や特性が不自然に映るのを避けるため、

敵の攻撃は基本的に回避する方針にしている。

今回は銃弾を撃ちつくした所で、援護してくれた取手の攻撃がトドメになった。

天香遺跡に蠢く《化人》は侵入者が一度、遺跡の外に出ると、同じ場所に再生、復活する。

この再生の法則は番人の大型《化人》にも当てはまるが、さっき倒した《神産巣日》は最初

に戦った時と身体の配色が異なっていた。

番人の大型《化人》だけが、白と黒のモノトーン調の色彩に変わって復活する。

この変化は《墓守》になる条件として差し出していた取手の《宝》を取り戻した事に関係が

あるのだろうと推測している。

この広間に到達する前に、受けたクエストは全て完遂済み。

第一の番人《神産巣日》も倒して、これで今夜の探索も終了となる。

探索が終了すると、俺は目元を覆うゴーグルを外す。

光る瞳を隠すため、戦闘中はもちろん、探索中も滅多な事ではゴーグルは外さない。

《宝探し屋》の装備は大広間の南側にある《魂の井戸》のピラミッドオブジェを利用して、

自室から取り出し、その場で身に付けるようにしている。

その逆も然り。

地上に上がる前に、大広間の《魂の井戸》で装備は全て外して、自室に戻す。

《宝探し屋》の装備を着けたまま、学園内は出歩かない。

《魂の井戸》の機能を知ってからは、墓地に持って行くリュックサックには、地下へ降りる

ための道具しか詰まっていないのが現状だ。

 

「葉佩君。前から思っていたんだけど、君は昼と夜とで、雰囲気が全然違うね」

バディ二人と大広間に戻る途中、取手が少し遠慮がちに話しかけてきた。

「この格好の所為じゃないか?」

皆守曰く『イカれた格好』だからだろうと、同意を求めると、取手は首を横に振った。

「ううん、そうじゃなくて。何て言ったらいいのかな。……昼間より、夜に会う君の方が、

キレイに見える」

「ぶッ!……ゲホッ、ゴホッ!」

隣で会話を耳にしながら、アロマを咥えて歩いていた皆守が、盛大に噴いて咽せた。

俺は足を止めて、取手を見上げる。

自分の雰囲気については以前、順平に『オマエ不思議系じゃん』みたいな事を言われた覚え

はあるが、『キレイ』などと言われた試しは、さすがにない。

だが、咽せた皆守と違って、俺は取手の言葉を、額面通りに受け取ってはいなかった。

その、まったく逆。

『夜に』と聞いてすぐに夜の眷属、――死神のペルソナの影響を疑い、警戒したからだ。

「男にキレイなんて、やっぱり失礼だったよね。気を悪くしたなら、ごめん。謝るよ」

じっと取手の様子を窺っていると、彼は慌てて前言を撤回し、すぐに謝ってきた。

気にしていない、と首を横に振って答えると、取手は安堵の表情を見せた。

「受ける印象が、そんなに違う?」

「う、うん。何て言うか、上手く言えないけれど。夜の方が、目が離せなくなるっていうか

……」

真剣に尋ねると、取手は上手く伝えられないもどかしさに、今度はちょっと悔しそうな顔に

なった。

「人によって、かなり違って見えるんじゃないかな。ねえ、皆守君」

「……俺に振るなよ」

咽せ返りの咳が、ようやく治まった皆守は、恨めしげな目で取手に文句をいう。

自分で自分の特異な気配を視る事はできないが、今の自分が他人の目に、一体どんな風に映

っているのか、まったくわからないというのは、やはりもどかしい。

だが、取手にさえ昼と夜とで、俺の雰囲気の違いが明確にわかるというのであれば、『何か』

が見える白岐やルイ先生とは、やはり夜は顔を合わせない方が良いのかもしれない。

危機感が募った。

また、それとはまったく別の不安も感じたので、その懸念を取手に確かめてみる。

「取手、今はピアノを弾くのが楽しい?」

俺の突然の質問に、取手は目を瞬かせたが、すぐに嬉しげに笑って答えてくれた。

「うん。君のおかげでピアノを弾くようになってからは、毎日がとても楽しい」

取手には、姉の大切な想いの詰まった楽譜とピアノがある。

何か夢中になれるものがあって、毎日が楽しいのは、良い事だと思う。

そういうものがあれば、自分の裡にいる死神の影に惹かれる事もないだろう。

「なら、いいんだ」

取手は俺の裡に潜む闇に惹かれ、無意識の内に自分を目で追っていた訳ではない。

そうわかって安堵して微笑むと、見上げる取手の頬に朱が差した。

「…………」

「……取手?」

何故か急に、取手は不自然な感じで黙り込んだ。

呼びかけてみても、彼は放心したように、呆然と立ちすくんでいるばかりで、返事がない。

取手の様子がおかしい、と思って、助けを求めて隣にいる皆守を振り返る。

しかし、皆守も取手と似たような表情をしていて、俺の期待は空振りに終わった。

「……皆守?」

こちらも呼びかけてみたが、やっぱり返事がない。

不審に思って顔を覗き込むと、我に返った皆守は、慌てて顔を背けた。

以降、何処か必死な面持ちでアロマパイプを吸っていて、とても話しかけられそうにない雰

囲気だが、時折ちらっちらっと、こちらに視線を寄越し、俺の様子を窺ってはいる。

挙動不審だ。

一方、取手の放心状態は、まだ回復していない。

俺は追及を諦めた。

バディの二人とも、急に様子がおかしくなった。

何か変な事をいっただろうか、と自分の言動を反芻してみたが、思い当たるような節は何も、

何処にもない。

これも夜の眷属、死神のペルソナ《タナトス》の影響の所為なのかと、俺は悩んだ。

原因は不明だが、とにかく夜は、昼間以上に気をつけた方が良さそうだ、と思った。

 

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