ヒスタミンH2受容体拮抗薬 胃潰瘍は実は怖い病気だった


現在、消化器系疾患治療薬としてH2ブロッカーが用いられています。
胃潰瘍や急性腹膜炎といった消化器系の病気は、この薬を用いることで怖い病気ではなくなりました。
胃にはペプシンの消化作用から胃自身を保護するために、粘膜で表面を覆っています。

しかし、ストレスを感じたり、何らかの要因で胃酸が出過ぎてしまうと保護しきれずに胃自身を傷つけてしまいます。

そこで、まずは胃酸の分泌の原因を調べたところ、
胃幽門洞のG細胞から分泌されるガストリン
ヒスタミン貯蔵細胞からのヒスタミン
迷走神経からのアセチルコリンがありますが、この中のヒスタミンに注目し研究を続けました。


これまでの抗ヒスタミン剤は、ヒスタミン由来のアレルギー症状には効果があったものの、胃酸分泌の抑制には効果がありませんでした。

ヒスタミンは体内の各所に存在する糖タンパク受容体と結合することで、胃酸分泌のほかにも平滑筋の収縮や血圧の低下などの作用を示す伝達物質として働きます。



ヒスタミンと結合する受容体には、疎水性の溝に伝達物質が入り込み結合するが、それ自身は反応は起こらず、特別な触媒は不要です。

もともと結合部位は伝達物質と似た形になっていますが、結合することで受容体の形が変わり(Induced Fit)、受容体の形が変わることで反応が起こります(Signal transduction)。

可逆的な反応を起こすには、シグナルが出せるだけの十分な時間結合できる、かつ離脱できるだけのちょうどいい結合力が必要です。

ヒスタミンより強い結合力を持ち、結合したときに受容体の形状が変わらない物質があれば、ヒスタミンが受容体と結合する前に結合し、阻害剤(拮抗剤、Antagonist)として働きます。
それに対し、結合することで受容体から多くのシグナルを出すような物質を促進剤(Agonist)と言います。なお、これら阻害剤、促進剤との反応は可逆的である必要があります。

有名な毒ガスの一種であるサリンは、アセチルコリンエステラーゼと共有結合を作り、不可逆的に反応し永遠とシグナルを出すようになるため非常に危険です。



ヒスタミンに拮抗する薬なら胃酸抑制し、消化性潰瘍治療薬はずでしたが、これまでの抗ヒスタミン薬では効果がありませんでした。
これまでの抗ヒスタミン薬で阻害される受容体をH1-受容体
阻害されない受容体を非H1-受容体(後にH2-受容体)と名付けました。

まずはリード化合物としてH1、H2どちらとも結合するヒスタミンを選び、ヒスタミンに似たものを作ることから始めました。
元のヒスタミンの2位の炭素、5位の炭素をメチル化した物質を作り、これら二つでH1受容体とH2受容体との効力に差があり
それぞれの受容体の存在を明らかにしましたが、決め手となる化合物とはいきませんでした。



ヒスタミンの側鎖のアミノ基をグアニジン基で置換したNα-グアニルヒスタミンを合成しました。

これは当初ヒスタミンと同じ作用も示しましたが、よく調べてみるとヒスタミンより弱く作動する部分作動薬として働くことが分かりました。

そこで、ある部位にイミダゾール環が結合し、そこから伸びる部分が、ある別の部分に届くと促進剤として働き、
また別の部位に届くと拮抗薬として働く、というモデルを作りました。



グアニジン基が正電荷をイミダゾール環から遠ざけ、分散させることで、促進剤としての作用が弱まったと考えられました。

グアニジン基の部分に炭素鎖をひとつ伸ばしてみたり、硫黄などのヘテロ原子を導入すると高い活性を持つようになりました。




これは、グアニジン基とカルボン酸とは二つの水素結合(双歯性水素結合)を作り、ちょうどグアニジン基の電子を引っ張りカチオン性を高めたり、結合部位により近づくためと考えられます。

促進部分はイオン性の結合と水素結合があるのに対して、拮抗部分は水素結合のみで結合します。



こうして、最後にメチル基を導入し中性にすることでブリマミドが完成しましたが、腸管吸収がよくなく、経口投与ができずに医薬品の開発にはいたりませんでした。



H1受容体とH2受容体では、イミダゾールの窒素原子上にある水素と結合をしますが、この水素の位置によってH1に作用するか、H2に作用するかが異なります。
互変異性体のどちらかがいずれかの受容体に結合します。



そこで、このイミダゾール環の、H2受容体により作用する互変異性体が多く存在できるように、電子吸引性および供与性の官能基を導入することで、この互変異性体の数を調節することができました。

こうしてできたメチアミドは、ブリマミドの10倍強い活性を持ちましたが、これもまた1%ほど腎臓に副作用を起こしたり、顆粒球が減少するなど重篤な副作用があり、使用は中止されました。



副作用の原因の一つとして考えられたのが、体内に存在しないチオ尿素を使用したということです。
天然にもあるような構造を使おうと考えられましたが、尿素では活性が減少し、グアニジンでは促進性はないものの、これも活性がメチアミドの5%程度にまで弱くなってしまいました。

そこで、グアニジンをそのままにして、天然アミノ酸にあるアルギニンを導入、グアニジンを中性にし、電子吸引性基を加え、塩基性を下げることとしました。



最終的には、ニトロ基やシアノ基を加えることで十分に塩基性が下がり、活性の強いシメチジンが完成しました。
その後も、イミダゾール環を変えることで今日でもよく使われるラニチジン(Zantac)やファモチジン(ガスター)が次々と開発されました。



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