1.社寺建築へのいざない
社寺建築は、宗教が各時代における権力と結びついていたことから、権力者がその権威の象徴として建てたものも多く、莫大な費用と最先端の技術を結集して造られている。その構法や様式などにおいては同時代の宮殿や顕貴の住宅など、ほかの建築には見られない独特の形態を整えており、独自の建築分野を築いてきている。

仏教建築の原型は、もとより外来の文化として中国、朝鮮半島から伝えられたが、現存する遺構をみる限り、彼の地の建築とは姿かたち、構造様式、使用資材などで異質の建築となっている。
これは移入時にわが国の実情に即して様々な選択が行われ、さらに独自の改良が加えられたことをものがたっているのでしょう。そして修理改修あるいは再建を繰り返し、その結果として法隆寺をはじめとして千三百年以上にわたる各時代の遺構が現実のものとして私たちの目の前に存在している。

里山や街中で見かける小さな見世棚造(みせだなづくり:注1)の祠から大神宮といわれる神社まで、また辻堂や本堂だけの簡素なお寺から七堂伽藍をそなえた大寺院まで、わが国には、いたるところに神社や寺院がある。
 
おそらく住宅を除けば、最も多い建築物ではないだろうか。建物自体の完成された美しさとその建物群が創り出す構成美、落着いた佇まいと自然との調和、永い星霜を経てその場所に在り続けたという存在感とそれに対する畏敬の念、神秘性と現代社会には無くなったものへの憧憬などが、私たちのこころをいざなう。


実際、創建時と変わらない姿を維持し続けている社寺建築も少なくない。これらに接したとき、私たちは知らず知らずのうちに古に想いを馳せ、往時の情景を描くことにたまらない喜びを見出しているのかもしれない。

古代の建築様式を造替により今に伝える
出雲大社本殿 (島根 1744年)

神社や寺院を建築物あるいは文化財としてとらえた場合、これらの背景には、その時代における政治的、経済的、社会的な要請があり、またひとびとの生活、風俗、慣習、欲求といったものがあった。
一方で、その時々の自然環境、生活環境、経済環境、文化の水準、工匠たちの生産技術力などがこれらに応えて、その両方が相俟って結実したものが、これらの建築物なのではないだろうか。


建築の目的とするところは、実用的な機能を充足させることはもちろん、同時にその建物に接したときの昂揚感、緊張感、安堵感などを与える精神的な機能をも併せ持つことが要求される。
その結果として建築物は、物理的、社会的、経済的にその時代に受容れられて充分な存在意義をもつものとなる。
古建築といわれるこれらの建築物は、まさに私たちが目の当たりにできる歴史そのものであるといえる。

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その一方で、仏教伝来以前からわが国に存在していたと思われる神社建築は、遺構としては平安時代までしか遡れないが(注2)、定時的に建て替える式年造替という他に例をみない伝承手法によって、その様式を今に伝えている。

わが国の宗教建築は、仏教建築はその遺構を、神社建築はその様式をという異なる二通りの伝承方法により千数百年にわたる建築の歴史をに伝えている。その伝承の仕方にも、やはり建築に対する日本人の建築観というものが感じられる。

本稿では、どこまれ迫れるか分からないが、これらの建築を通して日本人の精神の底流と建築観というものに触れてみたい。
また、社寺建築は時代を通じて最高の技術を用いて、永い歴史のうちに様々な工夫がなされているが、そのすべてが現代に受け継がれているわけではない。これについても併せて考察することとしたい。
社寺建築もこういった変遷にあわせて、それぞれの時代に新しい形態が生まれていますが、木造による建築を踏襲するとともに構法や形式および意匠などの本質的なところは変わっていない。

また建物を神や仏のための神聖な霊屋(みや、宮)として造営し、一度建てたものは幾度も修理を重ねながら大切に受け継いで長く使い続ける。不要になった建物はそれを必要とするところへ移築する。木を神聖なものと考えて大切に扱い、一度伐採した木は改修時等に転用して最後まで使い切る。

このような一貫した建築手法と建築すること自体を神聖な行為と考えるところに、私たち日本人の精神を感じるとともに各時代における建築観をみることが出来るのではないだろうか。

現在も遺構として存在する建築物は、永い春秋を経て各時代が要求するものに答えてきているはずである。これらの建築物とその背景をつぶさに考察することにより、私たちは日本人の精神の底流に触れることができるのではないだろうか。

上古において自然崇拝と農耕儀礼から始まったと思われるわが国の宗教は、律令時代には鎮護国家としての儀礼や祭祀を目的とするようになり、平安時代に入ると貴族など支配階級の現世的欲望の追求と浄土への往生を欣求するものとなります。さらに鎌倉・室町時代を通じて一般民衆の個人的な欲求の成就と葬祭儀礼のために用いられるようになり定着する。 

1300年前の建築を伝承する最古の仏教建築
法隆寺西院伽藍 (奈良 飛鳥時代)

見世棚造の祠

(注1)見世棚造 木階がなく柱間が1つ(1間社)の小型の社殿
(注2)神社建築の最古の遺構は12世紀建立の京都宇治上神社本殿とされています。

全国4万社を数える八幡神社の総本社 
宇佐八幡宮 (大分)