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やまびこさんのおくりもの
御杖の子供のためのむかしばなし

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山の神

むかしむかし、あっちの山にもこっちの川にも神さんが住んでおられたころのことです。
 毎年、神無月ひと月のあいだ、出雲の国で、国じゅうの神さんのよりあいがあって、神さんは遠い出雲の国まで出かけていかれます。けれど、みなが出かけてしまうと、ひとりも神様がいなくなって具合が悪いので、山の神さんがひとりで留守番をすることになっていたということです。

ある年のこと、そんな山の神さんをかわいそうに思った村人が、
「ひとりの留守番はさみしいだろう。」
と、まっ白なお餅を大きなこうじうたに山盛りのせて、山の神さんのところへやってきました。
「ひとりで何も食べないでいると、おなかがすくでしょう。みなさんの分もいっしょにお餅をもってきましたから、食べてください。」
といって、もってきたお餅をぜんぶお供えして、帰っていきました。
 山の神さんはひとりでさみしかったのと、おなかがすいてひもじかったのとで、村人が供えてくれたのを、なみだをながしてよろこんで、
「これはありがたい。こんなにたくさんもちを供えてくれたわい。もうはらがペコペコじゃ。」
というが早いか、むしゃむしゃとお餅を食べはじめました。よほどおなかがすいていたのか、
「うまい、うまい、これはうまい。」
と、夢中でひとつのこらずたいらげました。そして、
「ああ、うまかった。もう食べられん。おなかが苦しゅうて動けんわい。」
と、横になって寝てしまいました。山の神さんはあんまりおなかがすいていたので、ほかの神さんのことはすっかり忘れて、お供えのお餅をぜんぶ食べてしまいました。
 どれだけ寝たことでしょう。
 霜月になって、よりあいの終わった神さんたちが、出雲の国から帰ってきました。長い道をおなかすかして、へとへとになって、やっと村に着きました。すぐに山の神さんのところへいって、
「おうい、今帰ってきたぞ。」
と、大きな声でよんでも返事がありません。おかしいと思って、奥に入ってみると、なんと、山の神さんがいびきをかいて寝ていました。そして、その横には空っぽのこうじうたが転がっていました。神さんたちは、
「このこうじうたは何じゃ。村の人が供えてくれたものを、わしらが留守のあいだにこいつがみな食べてしまったんじゃないのか。」
と、怒りだしました。そして、ぐっすり眠っていた山の神さんをゆり起こしました。
 目を覚ました山の神さんが寝ぼけまなこでまわりを見ると、こわい顔した神さんに囲まれていました。われにかえって、たいへんなことをしたことに気づきました。山の神さんはあやまったけれど、ほかの神さんはたいそう怒って、
「なんということをしてくれた。みなで分けて食べるものをひとりで全部食べてしまうとは。お前は川で修行してこい。」
といって、山の神さんをかついで、川へなげこみました。
 かわいそうに、山の神さんは、冷たい冷たい川へおちて、流れていってしまいました。
 霜月七日のことでした。
 それからふた月、山の神さんは川へおちたままでした。村の人は心配して、
「もう正月も過ぎたのに、山の神さんは許してもらえないのかなあ。」
「そうだなあ。このままでは山の神さんがかわいそうだ。ほかの神さんが許してくれないのなら、わしらが助けてあげよう。」
 そういって、村の人みなで相談して、山の神さんを助けることにしました。
 村の人たちは、うつぎの木の枝で作ったかぎと、大きな小判の形の餅をたくさんと、わらをいっぱいもって、正月七日の朝早く、まだ暗いうちから山の神さんのほこらへ歩いていきました。
 山の神さんが川からあがったらあたたまってもらうように、わらを積み上げてとんどのしたくをしてから、川の方を向いて、
「おおい、山の神さあん。そろそろほかの神さんも許してくれるだろうから、あがってください。」
て、呼んだけど、返事がありません。
 そこで、川原から拾ってきた石をふたつ、残っていたわらで包んで、ほこらのそばにある大きな木の枝にぶらさげ、ゆすってみました。
 山の神さんは、ほかの神さんがこわいから、川の中にかくれてそれを見ていたのだけど、笑いがこらえられなくなって、川から顔を出しました。
「ぷはあ。あは、あは、あは、あははははははは。」
 そこをすかさず男たちがうつぎのかぎでひっかけて、山の神さんを川から引っぱりあげました。そして、山の神さんの冷えきった体を、わらのとんどであたためてあげました。
 それから、大きな小判の形の餅をとんどの火であぶって焼いたけど、黒こげになってしまったので、
「こんなになってしまったけど、よかったらめしあがってください。」
といって、引っぱり合いしてちぎって山の神さんにあげたら、大喜びでめしあがりました。
 残りの餅を、
「この餅をほかの神さんのところへ持っていって、許してもらいなされ。」
といって、山の神さんにあげたら、
「ありがとう、ありがとう、ちゃんとほかの神さんと分けていただきます。お礼に川につかっていたあいだに、集めてきたものを置いていきます。ほんとうにありがとう。」
と、なんどもなんどもお礼を言いながら、ほかの神さんのところへお餅をもって行きました。
 村人が山の神さんの置いていかれた袋を開けてみると、中には金やら銀やら、お金がたくさん入っていたということです。

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