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やまびこさんのおくりもの
御杖の子供のためのむかしばなし

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食わず女房

むかしむかしあるところに、ものを食べない嫁さんがほしいといつも言っている、けちな男が住んでいました。
 ある日のこと、美しい女の人がとんとんと戸をたたいて、
「私は、ものを食べないのでどうかお嫁さんにしてください。」
と言いました。男は、たいそう喜んで、その女の人を嫁さんにしました。もらってみると、その嫁さんは、ご飯も食べないし、よく仕事をするので、いい嫁さんをもらったと思って喜んでいました。
 ところがおかしなことに、十日もたたないうちに米びつのお米がからになってしまいました。
「不思議なこともあるもんだ。」
 そこで男は、
「山に言ってくるぞ。」
と言って、家を出ましたが、そっと引き返して、屋根の天井裏に登って、じっと家の様子をうかがっていました。
 その嫁さんは、夫を送り出すとすぐに、大きな釜に飯を炊き、大きなおにぎりを何十個も握りました。
 嫁さんが、髪の毛をぱっと開くと、頭のてっぺんに大きな口がぽかっと出てきました。そして、大きなおにぎりを、頭の口にどんどん放り込んで、全部食べてしまいました。それを見た男は、びっくりして、こんな嫁さんはもう一日も家においておくことはできないと思いました。そこで、知らん顔をしておりてきて、山からもどったふりをして、
「今、帰ったぞ。」
と、声をかけました。
「きょう、山へ行くと、山の神様からお告げがあった。女房と別れろと言うんだ。だから今すぐ出ていってくれ。」
と言いました。それを聞くと、嫁さんは、
「それではしかたがないので出ていくけれど、その代わり大きな桶を一つこしらえてください。」
と言いました。それでさっそく風呂桶のような大きな桶をこしらえてやって、
「さあ、これを持って出ていってくれ。」
と言うと、嫁さんが、
「ちょっとまあ、どのくらい入れるか、一度入ってみてください。」
と言いました。
 男は入ることぐらいわけないと思って入りました。そのとたん、嫁さんは男の入った桶をそのまんまかついで、とんとんとんと、山へむかってかけあがっていきました。
 男は逃げるに逃げられず、どんどん山の中へ進んでいくし、大変なことになったと思って、桶の中でふるえていました。嫁さんは山姥になって、風を切って走りました。
 男は真っ青になって、がたがたふるえていましたが、ちょうど谷にさしかかったとき、男の手に藤のつるが当たりました。
「今だ。」
と、そのつるにつかまってぶら下がり、飛び降りて、ちょうどそこにはえていたしょうぶとよもぎの茂みに身をかくしました。山姥は、なんだかおかしいなと後ろを振り返りましたが、よもぎはくさくて苦くて山姥のいちばんきらいな物だし、しょうぶは刀のように立っているので、こわがって、男が飛び降りたことに気づかずに、からの桶を担いでどんどんと行ってしまいました。
 おかげで男は、あぶないところを、命拾いしました。この日がちょうど、端午の節句だったので、それからは魔よけとして、しょうぶとよもぎをたばねて軒にさすようになりました。また、谷渡りの藤のつるは切ってはいけないと言い伝えられています。

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