ジャンケン娘

1955.11.01併映・帰ってきた若旦那
92分 イーストマンカラー


スタッフ
製作      杉原貞雄 福島通人
監督      杉江敏男
監督助手    福田純
脚本      八田尚之
原作      中野実
撮影      完倉泰一
音楽      松井八郎
美術      村木忍

キャスト    
阿佐見ルリ   美空ひばり
千明由美    江利チエミ
雛菊      雪村いづみ
斎藤又兵衛   山田真二
森政治     江原達怡
お信      浪花千栄子
亀沢先生    岡村文子
由実の父 公明 小杉義男
由実の母 絹子 南美江
おいね     沢村貞子
北島      高田稔


3人娘の夢の競演!
東宝だからできた豪華版!

「花の中の娘たち」「宮本武蔵」「蝶々夫人」「続宮本武蔵」に次ぐ東宝の中では5本目のカラー作品ににして東宝ミュージカル映画の代表作。封切り初日にはあの5千人劇場「日劇」を、観客の行列が7周したという伝説を持つ作品でもある。まだまだカラーが珍しかった時代にカラーだけでも豪華だというのに、美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみという当時のトップスターを3人もそろえたという超豪華版といってもいい作品だ。

監督は杉江敏男。のちに「お姐ちゃん」「若大将」「クレージー」などの東宝ミュージカル路線をささえる監督になる彼にとって、この作品はミュージカル初挑戦になった作品でもある。それまでメロドラマ中心に製作してきた彼は、この作品の成功でその作風を変える大きな転機になった。ちなみに、劇中にある映画のロケを見物するというシーンで宝田明、北川町子とともに監督自らが監督役でゲスト出演しているので、この部分にも注目してほしいところである。 

さて、この3人娘といわれたこのひばり・チエミ・いづみ。その取り合わせがどれだけ凄いことなのかっていうのは、現在の感覚ではピンとこないが、それこそ盆と正月とクリスマスが一緒に来たぐらいの豪華さだったらしい。ちなみに「3人娘」は今で言う「モー娘。」のようなユニットを組んでいたわけでなく、ただただ人気絶頂で人気を3分していた3人を指していった名称。それこそ今よりも「専属」という感覚が遙かに強かった当時、レコード会社もまったく違うトップスター3人が競演し唄うなんてことは、とても実現するようなことではなかったという。それを実現できたのも、当時飛ぶ鳥を落とす勢いのあった東宝だったからこそできたドリーム・プロジェクトだったと考えてもいいだろう。

ちなみに1941年(昭和16年)生まれの私の母親にとっては、今でもこの3人は大スターのようだ。60歳をすぎてた母親が、いまだに彼女たちのことを「ひばりちゃんが…」「チエミちゃんが…」「いづみちゃんが…」なんていってるもんなぁ。もはや3人のうち2人は故人であるのにも関わらずである。リアルタイムで出会った世代にとっては永遠のスターなんだね。きっと。

作品的も、とにかくこの3人を見せるための作品という感じで、ノーマルで純情な性格の美空ひばり、強引なまでに行動力があるしっかり者の江利チエミ、お嬢さんタイプで引っ込み思案の雪村いづみのアンサンブルも面白い。もちろんそんなトップスター3人だけに扱いも完全に同格。が、実際に作品を見ていると物語を引っ張っているのは江利チエミであり、この時点では女優として江利チエミが完全に一歩リードしているような気がする。後の2人は、ただ、ひたすら江利チエミに引っ張られて行動をしているのだ。まぁ、江利チエミはこの後、東宝の人気シリーズ「サザエさん」でも主演することになるわけで、そのコメディエンヌぶりは天性のものがあったんだろう。

とはいえ、この江利チエミは不思議な人である。はっきりいってビジュアル的にはイマイチというか、黙っている限り「単なるデブ」という印象でしかない。特に首の周りの肉は凄くて、とてもアイドルらしくない容姿なのだ。が、口を開いた瞬間その印象はガラッと変わる。セリフをしゃべり歌を唄う彼女はまさにカリスマ性のあるスターそのものに見事変身してしまうのだ。この作品の見る場合には是非とも彼女をポイントに観てみていただきたい! ほんと印象かわるよ!

が、そんな彼女を面白く思っていなかったのが「自分こそ芸能界の女王」と自認していた美空ひばりである。実際このひばりとチエミのライバル意識は強く、出番の数から、セリフの行数までまったく同じにしなければ双方収まりがつかなかったんだって! げに恐ろしきは女の戦い! そんなわけか、ストーリーはひばりの「瞼の父との再会」といづみの「舞妓さんの初恋」の2本柱を中心に進んでゆき、江利チエミをフィーチャーしたエピソードはない。その分3人そろったシーンでは彼女が1人で活躍しまくり、他のふたりを食ってしまうことでのバランスを取ったんだろうと想像しているのだが…。

ま、物語的には「瞼の父」「舞妓の恋」なんていう大時代的な物語なんで今観ると全然大したことはない。いづみの「舞妓の恋」なんて、結局惚れていた学生・山田信二に振られて終わりだし、ひぱりの「瞼の父との再会」も見え見えの展開だもんな。が、不思議な魅力をもつ物語でもあるのだ。30代も半ばになって子供を持つ身になると不覚にもこの再会シーンは、父親の高田稔に感情移入して泣けてしまうのだ。それは、この頃のアイドル映画は決してお子様だけを対象にしたものではなく、大人の鑑賞もそこそこ耐えうるものではあるといえるのか、それとも単に私が年をとり涙腺が緩くなっただけなのかよくわからないが…。ともかく、ラストの後楽園遊園地でのミュージカルシーンをはじめ、まだまだのんびりしていた昭和という時代のテイストを思う存分味わうにはいい作品あることは間違いなさそうだ。

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