隠し砦の三悪人

1958.12.28
139分 白黒 東宝スコープ


スタッフ
製作      藤本真澄 黒澤明
監督      黒澤明
監督助手    野長瀬三摩地
脚本      菊島隆三 小国英雄 橋本忍 黒澤明
撮影      山崎市雄
音楽      佐藤勝
美術      村木与四郎
録音      矢野口文雄 下永尚

キャスト    
真壁六郎太   三船敏郎
太平      千秋実
又七      藤原釜足
田所兵衛    藤田進
老将長倉和泉  志村喬
雪姫      上原美佐
老女      三好栄子
百姓娘     樋口年子
峠の関所番卒1  藤木悠
峠の関所番卒2 笈川武夫
早川方の騎馬侍 土屋嘉男
立札の前の男  高堂国典
落武者     加藤武
山名の番卒   三井弘次


「裏切り御免」の快感!
冒険大活劇の魅力満載!!

あまりにも有名すぎる話だが、かのジョージ・ルーカスが「スターウォーズ」のモデルとしてパクリ、そのお礼を「影武者」のプロデュースをすることで事なき得たことでも知られる作品。その物語は奇妙な縁で結びついた三人の男が、黄金200貫と姫を守って敵中突破! というこれぞ冒険活劇という内容になっている。

脚本は菊島、小国、橋本という黒澤作品ではおなじみの名脚本家たちと、黒澤が執筆。その執筆作業もひとりの脚本家が絶体絶命のピンチまで書いたところで、次の脚本家がバトンタッチその解決編から再び絶体絶命までを書き、また次に引き継ぐという贅沢なスタイルを採用しているため、実に巧妙で最後の最後まで息をつくひまもない。まさに「映画の魅力」の詰まった作品だ。日本映画や黒澤作品を「観たことない」という人にはぜひともお勧めしたいし、もしこの映画を見て「つまらない」と思うのなら「あなたには昔の日本映画は向きません。どうか、CGバリバリのハリウッドかトレンディドラマでも観てください」としか言いようがない。もっとも黒澤作品をたくさん観てゆくと、脚本が巧妙な割には演出が大味で、三船も隠密行動のせいかいつもの豪快な魅力に欠け、ここのところでは評価が分かれるところでもあるが…。

で、ここから先はネタバレの話になるんで、もし「まだ観てない」という人がいたら、読まない方がいいかもしれない。えっと、何を話したいのかというと「藤田 進」についてである。藤田 進は初期黒澤作品には欠かせない人物でもあったが、黒澤が三船と出会ってからはとんとお見限りだった役者。やはりその持っているオーラがアナクロというか、無骨すぎるというか、「軍人」をやらせたら天下一品なのだが、三船と比べるとあらゆる面でスマートさに欠けてしまう嫌いはある。ま、そんなところが黒澤が藤田をしばらく起用しなかった理由なんだろうが、この作品ではそんな藤田の無骨さをうまく生かし、実に好人物に描かれていたように感じた。ストーリー中盤の三船との一騎打ちもさることながら、やはりクライマックス。いよいよもう主人公たちの運命もここまでかと言うときに、やおら「火祭りの唄」を歌い出し、彼らを助け自らも「裏切り御免」と言い捨て去ってゆくそのかっこよさ! それはもう快感ですらある!

特に「裏切り御免」の一言は射精感にも似て気持ちいい。この展開を現代にたとえるならば、好人物で仕事も出来るが上司に恵まれなかったため虐げられていた男が、その上司に辞表をたたきつけ、今後は会社に頼らず自らの力で人生を切り開いてゆくと言った感じのシチュエーションといったところ。だが実際の人生でそれはなかなか難しい。だからこそ、それを見事にやってのけ、「裏切り御免」という短いフレーズの中に、さまざまな決意表明を詰め込み「ニカッ」と笑う彼の潔い姿に好感を覚えるのだろう。それがいかにも融通の効かなそうな無骨な野暮天で、絶対に人を裏切りそうにもないイメージの藤田進が演じているからなおさら粋で、快感にまでなっているんじゃないかと思う。この辺のキャスティングは実に見事である。

また、キャスティングといえば忘れてならないのが雪姫を演じた上原美佐の存在である。実は私は高校時代なぜかこの上原美佐と、渡辺プロの社長夫人・渡辺美佐を同一人物だと思いこみ、上原美佐がその後、渡辺 晋と結婚し渡辺美佐になったと信じていた。そこにはまったく理由もなければ、根拠もない。ま、あえて理由を探すとすると上原美佐の女優生活そのものが2年ほどと極めて短い上に、ちょうど彼女が映画界を去るのと同じ時期に渡辺プロが映画界に進出し、渡辺美佐の名前を観るようになったからなんだろうな…きっと。ま、そんなことはどうでも良い。

この作品の上原美佐は全くの素人の抜擢と言うこともあり、芝居的にはドヘタである。(この後の作品でも相変わらずドヘタではあるが…)にも関わらず、この作品の中では妙なりりしさと魅力を持った存在として輝いている。私が一番好きなシーンは、元秋月領をを見ながらひとり号泣するというシーンであるが、ここの彼女の足の真っ直ぐにカッと開き立つその立ち姿は本当に美しいし、かっこいい。(ちなみにこのロケは黒澤は参加せず助監督の野長瀬三摩地と高瀬昌弘のコンビが撮った)また、ラストシーンの衣装をがらりとお姫様スタイルにかえ、3歩ほど画面手前に歩いてくる、「能」歩き方をモデルにしたという歩き方もとても美しく優雅だ。が、よくよく考えてみると印象に残っている彼女のシーンはすべて、「型にはめられた」シーンばかりで(泣いたのはマジ泣きだったそうだが)彼女自身の魅力ではないような気がする。ともかく、そんなことがきっと彼女の女優人生を極めて短いものにさせたんだろうな。と思ってみたりもするのである。

そういった意味でこの作品は黒澤のキャスティングについて、いろいろ考えながら観ると、それはそれで別の面白さがあるように思う。

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