「男騒ぎの映画」に駄作無し!
東宝特撮戦記の隠れた名作
「男しか出ていない映画に駄作無し」と言ったのは故・淀川長治。ま、氏の場合には別の意味があったのかもしれないが(笑)、「大脱走」や「太平洋の地獄」などに代表されるような「男騒ぎの映画」には傑作が多いのは確かだ。 ま、もっとも「大脱走」は脱走した後の街中で女性が登場するので、厳密な意味では「男しか出てこない」ワケではないのだが…。ま、そんな中、この映画は正真正銘女性は一切出てこない作品で、淀川氏の格言通りとても面白い。名作といってもいい作品になっている。加えて言うなら太平洋戦争を舞台にした戦争映画にしては、戦後製作のものでは恐らく唯一日本が勝利する(作戦が成功する)という作品でもある。そんなこともあって、この映画を見るとやっぱり自分は日本人なんだなぁとつくづく思ってしまう。なんだかんだで、日本が勝つのは見ていて嬉しいし。妙な悲壮感が無いのもこの映画の魅力でもある。
で、タイトルの「キスカ」。実は私はこの作品を観るまでこの作品を「キスカ」という昆虫怪獣が登場する怪獣映画だと思っていた(笑)。なぜ、昆虫怪獣だと思っていたかというと、私が子供の頃に売っていた殺虫剤に「キスカ」という商品があったからなのだが、今となってはなぜこの殺虫剤が「キスカ」だったのかの方が「謎」だ。とはいえ、私と同じようにこの作品を怪獣映画と思っていた人も絶対いたはずだ。っていうか思っていなかった? みなさん?
それはさておき、タイトルの「キスカ」とは何かというと、アリューシャン列島に実在する島の名前である。そしてこの映画はキスカ島にいた日本軍守備隊の一大救出作戦を実話をベースにドキュメンタリー・タッチで描いた作品だ。最近でも、このキスカ救出作戦は最近でもかわぐちかいじの「ジパング」でネタにしているのでご存知の方も多いのではないか? またサブタイトルで「太平洋奇跡の作戦」と謳っているが、まさにこのキスカ救出作戦は奇跡の作戦だった。
どのくらい奇跡かを説明する前に、物語の背景を述べておくと、このキスカ島は太平洋戦争初期にアッツ島などと共に占領されたこの島。もともと南方戦線への陽動作戦の一環として占領されたこの島ではあったが、米軍の反攻によりついに隣のアッツ島までが玉砕してしまった。もはや戦略的価値も失い、米軍の真っ直中で完全に孤立してしまった島というのがこのキスカ島だ。このまま行けば当然アッツの二の舞、玉砕は必至である。救出か? 玉砕か? しかし最終的に彼らは「救出」を決断した。すでにこの時点で奇跡が始まったといっても過言ではないだろう。なぜならその頃、もはや帝国海軍には貴重な残り少ない戦力を救出作戦などに削く余裕なんてなかったのだ。しかも人命尊重の今とは違い、神風攻撃や玉砕がむしろ当たり前の時代である。ではなぜ「救出」と決まったのか? それは帝国海軍の最後のプライドであり、それまでに失ってきた尊い犠牲への贖罪だったといえるだろう。ともかく「救出」を強く主張する山村聡の姿は感動的で必見だ。
しかし、この作戦はあまりにも困難。なにせこの作戦を成功させるには、米軍の制海権・制空権の真っ直中を敵中突破してするしか方法が無いんだから。しかも敵には高性能のレーダーまである。成功すること自体が奇跡である。唯一の味方はキスカ島を覆う「霧」だけ。作戦の成功はいかに敵に悟られずに霧に紛れて敵中突破するかにかかっていた。この映画の面白さもまさにここである。敵中突破という点では「隠し砦の三悪人」とも共通した面白さがあるいってもいい。そして私が特に評価したいのは脚本の良さというか、その語り口だ。全編にわたり帝国海軍がさまざまな困難を乗り越え作戦を遂行してゆく様子を、手に汗握るサスペンスを織り交ぜながら、テンポよくまとめていると思う。また、団伊久磨のスコアによる音楽も素晴らしく、特にラストのキスカ・マーチは名曲で、撤退シーンの爽快さを一層も盛り上げてくれる。
ま、こういうタイプの戦争映画は「ナバロンの要塞」や「大脱走」などでお馴染みだが、日本映画では「独立愚連隊」の様なフィクションを除いてほどんど無い。日本で作った戦争映画といえば俯瞰的な視点で歴史を描いた作品ばかりで、まるで歴史的な戦争映画を娯楽的なエンタテインメントとして描くのは御法度のような雰囲気もある中、よくこれだけの面白く爽快感がある作品を作れたものであるとつくづく思う。
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